東京地方裁判所 平成11年(行ウ)35号 判決 1999年7月08日
原告
浜野産業株式会社
右代表者代表取締役
浜野順之助
右訴訟代理人弁護士
加藤豊三
被告
東京国税不服審判所長 寳金敏明
右指定代理人
齋藤紀子
同
木上律子
同
山口久男
同
加藤昌司
同
佐藤秀一
被告
麹町税務署長 伊藤勝利
右指定代理人
齋藤紀子
同
木上律子
同
光吉正博
同
杦田喜逸
同
佐藤宜弘
主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
一 次の各事実は、本件訴訟記録に照らし、明らかである。
1 原告は、平成一一年二月二五日、当裁判所に、被告を「東京都千代田区九段南一丁目一番一五号」所在の「東京国税不服審判所長 太田幸夫」、請求の趣旨を「原告の平成八年一二月二七日付法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課通知書(麹法(法)特第二五八六号、同二五八七号、同二五八八号、同五〇四一号、同五〇四二号)に基づく課税処分について東京国税不服審判所長のなした平成一〇年一一月二〇日付裁決を取り消す。」と記載した訴状を提出して、裁決取消しの訴え(平成一一年(行ウ)第三五号事件。以下「三五号事件」という。)を提起した。
その際、原告は、右訴状の請求原因欄においても、平成九年五月二一日に「東京国税不服審判所」に対し審査請求をした旨記載した上、これに対する裁決は理由不備及び事実誤認の違法があるから取り消されるべきであると主張した。
2 次いで、原告は、平成一一年三月一二日、当裁判所に対し、「申立書」と題する書面を提出し、「被告の表示の変更申立書」の表題を付した上で、「被告の表示を誤ったので、被告とすべき者の表示を原処分庁である「麹町税務署長」と変更する。」と主張した。
3 しかし、原告は、同年三月二四日、当裁判所に対し、被告を「東京都千代田区九段南一丁目一番一五号」所在の「麹町税務署長」とし、請求の趣旨を「原告の平成八年一二月二七日付法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課通知書(麹法(法)特第二五八六号、同二五八七号、同二五八八号、同五〇四一号、同五〇四二号)に基づく課税処分を取り消す。」と記載した訴状を提出して、前記三五号事件の裁決に係る処分の取消訴訟として、行政事件訴訟法一九条に基づき、課税処分取消訴訟(平成一一年(行ウ)第六五号事件。以下「六五号事件」という。)を追加的に併合提起し、同年四月八日には、前記2記載の申立てを取り下げた。
4 そこで、当裁判所は、同月一五日、三五号事件の被告を東京国税不服審判所長、六五号事件の被告を麹町税務署長として、これらの者に対して、それぞれ訴状を送達した。
5 そうしたところ、被告東京国税不服審判所長は、三五号事件について、「東京国税不服審判所長は裁決をした行政庁ではないから、訴えは却下されるべきである」旨の本案前の答弁を提出し、また、被告麹町税務所長は、六五号事件について、「被告適格を欠いた不適法な訴えである三五号事件に併合提起された六五号事件の訴えには行政事件訴訟法二〇条が適用される余地はなく、右訴えは、裁決書が原告に送付された平成一〇年一二月七日から三箇月の出訴期間経過後に提起された不適法な訴えであるから却下されるべきである」旨の本案前の答弁を提出した。
6 これに対し、原告は、平成一一年五月三一日、当裁判所に対し、訴状記載の被告の表示である「東京国税不服審判所長太田幸夫」は「国税不服審判所長太田幸夫」とすべきところを誤記したことが明白であり、明白な誤謬に当たるので、右記載を「国税不服審判所長太田幸夫」と補正する旨を申し立てた。
二 そこで、まず、原告が平成一一年五月三一日付け補正申立書をもって行った三五号事件被告の表示の補正の可否について検討する。
訴状に記載した被告の表示に不備がある場合、原告たる当事者が、表示の補正の方法によって右不備を補正することが許される余地があることは原告主張のとおりであるが、右は行政事件訴訟法一五条一項の被告の変更とは異なり、当初の記載上の不備を是正するにすぎないものであるから、その範囲はあくまで当初の当事者との同一性を損なうことのない範囲で許容されるにとどまり、訴状の当事者欄、請求の趣旨、請求の原因及びその他の各記載から総合的に判断して合理的に確定されるべき当事者と全く異なる者を補正の名の下に新たに被告として表示することは許されないというべきである。
本件においては、前記のとおり、本件訴状の当事者欄には、被告として、国税不服審判所長とは別個の行政機関である「東京国税不服審判所長」と記載されており、その住所地の記載も、国税不服審判所の住所ではなく、東京国税不服審判所の住所が記載されていること、請求の趣旨欄の記載においても、裁決を行った行政庁は「東京国税不服審判所長」である旨表示され、請求の原因欄にも、「東京国税不服審判所」に対して審査請求を行った旨がそれぞれ表示されていることからすれば、右の被告欄の「東京国税不服審判所長」の記載に続いて、その個人名として、当時国税不服審判所長の地位にあった者の氏名が記載されていることを考慮に入れても、訴状全体として被告として表示されている者は「東京国税不服審判所長」と理解するほかない。
そして、右訴状における各記載の内容に加え、原告が三五号事件を提起するに際して作成した平成一一年二月二三日付け訴訟委任状の授権事項欄の記載は「被告東京国税不服審判所に対する法人税額の更正等賦課処分取消請求事件の訴訟行為一切」とあり、「国税不服審判所長」に対するものではないこと、原告は、同年三月一二日にも、「被告の表示の変更申立書」と題する上申書を提出し、被告の表示を誤ったので訂正する旨を申し立てたが、その際には、本来「国税不服審判所長」と記載すべきところを「東京国税不服審判所長」と誤記した旨の主張は全く行わず、むしろ、三五号事件の被告の表示を「麹町税務署長」と変更する旨の主張をしたことなどの各事実に照らせば、原告(その訴訟代理人も含む。)が、訴状において被告として「国税不服審判所長」を表示する意思を有していたにもかかわらず、その記載を誤って「東京国税不服審判所長」と記載したものであるとも認め難い。
したがって、原告が、現段階に至って、三五事件の訴状における「東京国税不服審判所長」との被告の表示は明白な誤記によるものであるとして、右表示を「国税不服審判所長」に訂正することは、実質的に被告を変更するものにほかならず、表示の訂正としては、その許容される限度を超えるものとして許されないといわざるを得ない。
三 右によれば、三五事件は東京国税不服審判所長を被告とする訴えであると解さざるを得ないところ、原告は、前記表示の訂正が許されないとしても、実質的に前記裁決をした行政庁は東京国税不服審判所長であるから、被告適格に欠けるところはないとも主張する。
しかし、前記裁決は、国税通則法七五条三項、九八条一項の規定に基づいてされたものであるから、その裁決庁が国税不服審判所長であることは明らかであり、被告東京国税不服審判所長が右裁決をした行政庁であると認めることは困難である。
したがって、三五号事件の訴えは被告適格を欠く者に対する不適法な訴えというべきである。
四 また、行政事件訴訟法一九条による請求の追加的併合が認められるためには、基本となる取消訴訟が適法であることを要すると解されるところ、三五事件の訴えが不適法な訴えであることは前記三記載のとおりであるから、六五号事件の訴えの出訴期間の遵守についても、行政事件訴訟法二〇条を適用して、原告が三五事件を提起した平成一一年二月二五日に六五事件が提起されたものとみなす余地はない。
したがって、原告が前記裁決があったことを知った日から起算して三箇月を経過した後であることが明らかな同年三月二四日に提起された右訴えは、出訴期間経過後にされた不適法な訴えといわざるを得ない。
五 よって、本件各訴えは、いずれも不適格でその不備を補正できないことは明らかであるから、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一四〇条の規定により、これらを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)